安藤 るみ子 2025.06.30
夏至も過ぎてあっという間に7月ですね。
七十二候では半夏生(はんげしょうず)。
半夏(からすびしゃく)が生え始めるころ。
田植えを終わらせる農事の節目をいうそうです。
ちなみにこちらが半夏生↓
これから暑さが日に日に
増していくというのに、
すでにこの暑さ、、、。
こうした季節の草花で
少しでも涼を感じたいです。
先日病院の待ち時間、『東京の台所』
という朝日新聞デジタルで
連載されている大平一枝さんの
人気コラムが書籍化されたものを
読んでいました。
市井の人々の台所にまつわる
暮らし・生き方を取材したものなのですが、
思いがけず涙腺ゆるむような
台所を舞台とした実話でした、、、。
様々な家族の形があって、
それぞれの台所があり、
それぞれのその時々の事情があって、
思いがあって、
そして家族の形も変化していく中で、
辛いことや悲しいことがあっても、
それでも台所があれば、
人間、料理をして食べて生きていく。
様々な方々への取材から
そんな言葉が紡がれています。
住まいの中での台所の存在は
やはり暮らしの中心になり、
使う人・家族がそのまま表れる
場所なのかとあらためて思いました。
『台所』という言葉はそれだけで
その場所の人の体温を感じます。
私たちが住宅を設計するとき、
キッチンの位置づけは大きな存在です。
ついつい『キッチン』と
言ってしまいますが、
そこに暮らしが加わると
『台所』と言える気がします。
その『台所』はぜひ暮らしの
中心になる場所・家族の中心になる
場所なんですね。
ほんの少し前までは、
キッチンは奥様中心の場所という
位置づけだったと思います。
キッチンは女の城的な、、、。
奥様がちょっと籠りたいとか
隠れたいとか、隠れてお酒飲みたいとか、
隠れて子供とひそひそ話をしたいとか
悪口言いたいとかそんな笑えるご要望を
伝えてくださる方も多かったですし、
もちろん今だってそれが
スタイルになっているお住まいも
少なからずいらっしゃいます。
最近はご夫婦ともに台所に立って
お料理をされる方も増えてきて、
オープンでゆとりある
レイアウトだったりサイズ感だったり。
みんなが使い集うキッチンのスタイルです。
ただ、オープンな台所ほど、
散らかる姿をどう処理するかが大事で、
パントリー的収納庫を隣接させて、
日々の雑多なものを置ける
家事(事務)コーナーみたいなものを
まとめられるスペースを
提案させていただくことも多いです。
オリジナルで造作した
コの字型のキッチンの事例。
食住一体型と言ったらいいでしょうか、
暮らしのキッチンはかなり
近い位置になりますね。
現在はスツールを置いたり家電家具、
キッチンツールがセンス良く置かれていて
本当にいい暮らしの風景になっています。
料理・食事・お酒・会話、
そんな暮らしの風景を思い描きながら
設計した『台所』です。
ペニンシュラ型のキッチンの事例です。
キッチン自体はクリナップのステディアを
採用させていただいていますが、
背面の収納はオリジナルで造作した収納です。
そしてその奥にはパントリーと
家事コーナーを兼ねたスペースがあり、
洗面室までウォークスルーで
行かれるようになっています。
行き止まりのない設計です。
そして、階段から降りて来た時に
見えるキッチンは暮らしの中心感があり
これからの台所としての活躍ぶりが楽しみです。
最近ですとなかなか事例としては
少ないのですが、壁に面して
L型のキッチンを配置しています。
ダイニングテーブルが作業台を兼ねた
まさに『台所』です。
スペースをかなり有効的に使えます。
自然と家族が同じ場所に集い、
嬉しいことも悔しいことも
共有できるようなそんな台所です。
先ほどの『東京の台所』では、
暮らしの場が物語になり、
10の台所には10の物語がある。
と語られています。
楽しい嬉しいときばかりではなく、
辛く悲しいときにも台所に立ち
食事を作り食べる。
そうして少しづつ傷をいやし
日常に戻っていく。
そんな場所なのだと感じました。
確かに、台所は住まいの中で
一番五感を使う場所なのですね。
そんなそれぞれの物語の舞台となる台所。
どんなときにも持ち主に寄り添い、
ただの場所ではなく、
五感を使い少しでも豊かに
心動く空間ににしたいですね。
そして台所は食べるものから
栄養を得る場所でもあるのと同時に、
その場所にいることで
心に栄養を与えてくれる、
そんな場所になってくれたらいいなと
思います。
ショーホーム「森の里のいえ」の台所。
階段から降りてみえる台所のある風景。
台所に立った時にみえる庭の緑。
安藤
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