平野 聡史 2022.03.14
こんにちは、設計の平野です。
3月半ばを迎え、
ようやく長い冬が明け、
春の足音が聞こえてきました。
太陽はポカポカ、
海はキラキラ、
鼻はズルズル・・・
さて今回は
お引き渡しから1年が経ち、
写真撮影をさせていただいた
新築物件をご紹介させていただきます。
既にインスタでは動画も交えて
ご紹介させていただいており、
私もチョロチョロ映っておりますが、
そこでは語れていない
(そもそも今回しゃべっていない)
部分を少しお話しできればと思います。
物件は施主さまのお母様所有、
しばらく空き屋になっていた住まい。
計画地は、藤沢市の海岸線から
少し内陸に入ったわりと交通量の多い
道路に面した立地です。
面した、といっても
敷地が旗竿形状になっており、
家が建てられる部分は、
前面道路から15mほど
奥まったところで、
道路からは見えないその奥に
100坪ほどを有する敷地。
先代がこだわって
つくられたであろう
大きな庭石や植木が
和を感じるお庭と、
そのお庭に向かって
南と東に縁側がある、
平屋の住まいが建っていました。
縁側とお庭のつながりは
とても魅力的ですが、
どうしても大きな開口部ばかりで
耐力壁が少なく、耐震性に
大きな不安がある。
そのため、
この住まいを受け継いで
お住まいになる施主さまは、
取壊して新築する「建替え」を
希望されていました。
しかしながら、
前面道路への接道巾が
1.8mほどだったため、
建築基準法第43条第1項で
定められている
「建築物の敷地は道路に2m以上
接しなければならない」をクリアできず、
建て替えの新築は不可か、
と思われたため、
最初は基礎と構造体を残して解体し、
耐震補強を伴う全面リノベーション
の計画でした。
その後、市との協議で
一定の条件を満たせば建築が可能となる、
「法第43条第2項第2号の許可」を
受けられる可能性があることが分かり、
ご要望であった新築プランにシフト。
その建築許可の条件は、
●既存の巾2m未満の通路の奥に
2m四方の「終端空地」をつくること。
●その部分を道路とみなすため
分筆登記をすること。
等々があり、
具体的な建築物の計画と共に
市に許可申請を提出。
その計画が「建築審査会」で同意が
得られれば建築許可が発行され、
建築確認申請へ進むことができる
というもの。
ですが、
世は新型コロナ第一波の影響で、
緊急事態宣言が出た頃だったと
思います。
そのため「建築審査会」も
通常のペースでは行われず、
建築許可が得られるまで
数か月を要しました。
また、
施主さまご夫婦は
長く海外にお住まいで、
奥様は先に帰国されていたのですが、
お仕事の都合で
海外に残っていたご主人は
コロナの影響で帰国することが
難しくなってしまいました。
そのため、お打合せには
ご主人にリモートで参加いただく
形で進んでいきました。
直接ご主人にお会いしたのは
完成からしばらく経ってから
のことでした。
・・・そのような困難を乗り越え、
無事に完成を迎えることができた
物件だったのです。
それでは、
まずは既存家屋の解体から。
既存の大谷石の門構えを
撤去したところ。
塀に使われていた大谷石は、
後で再利用する計画にしています。
一旦、邪魔にならない場所に
力持ちの解体屋さんが積み上げて
仮置きしてくれた状態。
どこに使うかは後のお楽しみに…
建築許可を得るために
通路の終端につくった
2m角の空地。
電柱もここにあってはダメなので、
この後移動しています。
建築許可後、
無事に古家の解体が済み、
地鎮祭を迎えました。
ここからは一気に完成後になります!
まず、内部から。
玄関土間は砂利の洗い出し仕上げ。
右側はシューズクロゼットです。
写真中間あたりの天井が
明るくなっているのは、
照明ではなく天窓です。
平屋はどうしてもお家の中心付近が
暗くなりがちなので、
上から光を取り込む天窓が有効です。
玄関と居室を温熱環境的に
仕切るガラス入り格子の造作建具。
LDKに入ったところ。
南側を見る。
開放感のあるリビング・ダイニングが
この家の最大のテーマ。
勾配天井を活かした開放的な空間を
ご要望されていたので、
なるべく空間の中に
梁が出てこないよう、
かつ、水平構面の強度も落とさないよう、
見えないところで構造の組み方を
工夫しています。
正面の掃き出し窓は
ウッドデッキにつながります。
円卓がちょうどいい納まり具合。
ここに座っていると
とても居心地の良さを感じる空間です。
床は桧無垢。
天井はレッドシダー羽目板。
壁はオリジナル珪藻土。
テレビ背面の壁裏は、
大容量のストックヤード(WIC)
になっています。
この壁は天井まで届かせないことで、
板張りの天井がのびやかに見え、
広さを感じさせています。
この高さ関係は上手くいったと
思っています。
天井を綺麗にみせたかったので、
照明は天井には設けませんでした。
LDKとストックヤードの間の
「間」。
何かをする場所ではないけれど、
なんか好きな「間」です。
そんな「間」に引き上げてくれたのは
施主さまのセンスの良さによるもの。
LDKに面して和室があります。
L字の建具を閉めれば個室に。
こちらはお母様のお部屋になります。
天井はピーラーの突板市松張りで
落ち着いた雰囲気に。
寝室は壁が多めで落ち着いた空間に。
脇はご主人用のウォークインクローゼット。
トイレには直接の窓はありませんが、
前出の天窓からの明かりが入るよう、
入口引戸の上部をガラス入り
欄間にしました。
写真右上からの光が
そこから差し込む自然光です。
最後に外観です。
片流れの平屋住宅。
撮影時は天気が良すぎました。
壁はシラスそとん壁スチロゴテ仕上げ。
一部レッドシダーの板張りです。
こちらは造園完成時に
施主様が送ってくれたお写真。
(撮り方がまたお上手)
解体で最初に取っておいた大谷石は、
アプローチの敷石及び
ポーチ階段として活用しました。
アプローチの洗い出しとの
組み合わせは、
協力業者の外構造園担当である
原嶋氏のアイデアで、
良い雰囲気に仕上がりました。
ポイントで植えたスナゴケとの
マッチングに萌えます。
下草類はこれから追加で植えさせて
いただく予定です。
T様。
大変お待たせしており申し訳ございません…
コロナ禍の困難を乗り越えて完成し、
お引き渡し後しばらくしてから
帰国されたご主人に
初めて直接お会いできた時には、
言葉に出来ない嬉しさがありました。
これからの新緑の季節には、
また違った表情を見せてくれる
であろうお庭と、
住まわれるほどに深みの増し
艶がでる自然素材の空間を
末長く楽しんで
いただたら幸いです。
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